|
アラビア半島の諸国は、現在、オイルマネーで潤っているが、古代から中世にかけては別の天然資源がこの地域に莫大な富をもたらした。乳香である。蠱惑的な香りに魅せられた王族や皇帝の逸話は数知れず、シバの女王がソロモン王に送ったのも乳香である。香りに加えて、宗教的・医療的な功用がもたらす神秘性と、半島南部の一部の地域にしか自生しないという稀少性により、乳香は金と重量比で等価、もしくはそれ以上で交換されていた。乳香や没薬などの香料は、隊商により運ばれていたが、その交易路はまた、インドやアジアのスパイスを中東やヨーロッパに運ぶための路でもあり、アラビア半島には幾筋もの隊商路が張り巡らされていた。 半島の中央部分は高原状の砂漠であるが、アラビア海に面する南端部は丘陵地になり、茫漠とした大地に幾筋もの深い峡谷が走っている。その谷底はワジ(涸川)になり、数十年に一度の大雨の時には、ここを激流が駆け下る。ワジ・ハドラマートはこの地域で最大のワジで、幅が12q、全長が160qに及ぶ。香料やスパイスはこの谷に沿う隊商路を、ラクダの背に揺られて運ばれたのである。 シバーム(Shibam)は交易路の要衝に位置する。町が最初に建設されれたのは3世紀頃といわれている。その後、エチオピアやペルシャの侵略を受けたが、壊滅的な被害をもたらしたのは13世紀と16世紀の大洪水である。2度に渡る出水を体験した人々は、より洪水に強い街造りを目指した。台地上への移転は安易で確実な解決策であるが、交易都市としての機能が保たれない。そこで考えたのが、地盤の大規模なかさ上げと、高層化された建物によるコンパクトな街区構成である。強固な土壇を築き、その上に建築物を高密度に建設することにより、シバームは災害に強い街と化している。 ![]() ワジに築いた土壇に立つシバーム 谷底の高層住居群は、"世界最古の摩天楼都市"、"砂漠のマンハッタン"などと称され、特異な城塞都市として、1982年に世界遺産に登録されている。二重の城門を入ると広場があり、常設の市場になっている。公共施設として2つの宮殿と7つのモスク、それに学校や病院がある。域内は7ha余りと狭いが、そこに500棟の高層住居が並び、7,000人程が住んでいる。ヘクタール当たりの人口密度は約1,000人で、超高密度住区である。
|
| Copyright 2008 SOHJUSHA KK. All Rights Reserved. |